いまからおよそ150年前、庶民の間では五百羅漢信仰が流行していました。「羅漢」とは仏教の修行を積み、最高段階に達した聖人のこと。とりわけ、釈迦の教えを広めた500人の直弟子たちは「五百羅漢」と呼ばれ、さまざまな石像や木像、絵画となって人々に親しまれていたのです。
そんな幕末の江戸で、かつてない壮大なスケールの「五百羅漢図」に挑んだ絵師こそが、狩野一信でした。
縦172㎝・横85 ㎝の大きな画面。そこに羅漢を5人ずつ。それを100幅(100枚)で、五百羅漢すべての営みをつぶさに描ききる。前代未聞の一大構想を打ち立てた一信は、三十代の終わりから没するまで約10年の歳月、ひたすら羅漢を描き続けました。そして、この類まれなる極彩色の大作を残したのです。