水墨画
水墨画は中国・唐時代(618–907)に生まれ、日本には奈良時代から部分的ながら様々な経路を通じて伝えられました。鎌倉時代、日中貿易の活況を背景に日本で禅文化が興隆し、鎌倉や京の禅寺に中国からの渡来僧とともに水墨画が大量に流入しました。その後禅僧の往来が減少してからも、日本国内での中国絵画愛好の熱は衰えず、足利将軍家には多数の名品が蓄積されました。こうした美術文化は徳川将軍家にも継承され、中国・南宋~元時代の絵画様式は、14〜17世紀の日本絵画の大きな柱となりました。本章では、戦国時代16世紀に活躍した画家を中心に、アメリカでも愛された水墨画の世界を紹介します。
狩野派の時代
狩野正信(1434–1530)に始まる狩野派は、血縁で繋がる「狩野家」を中心とした専門の絵師集団です。室町時代以降、権力者の庇護を受けて大いに発展しました。江戸時代、政治の中心が江戸になると狩野派も本拠地を京から江戸へ移します。狩野探幽(1602–74)は、江戸幕府の御用絵師となり、余白を活かした瀟洒淡麗なスタイルで狩野派に革新をもたらし、狩野派は画壇を制する画派となりました。一方、豪快な桃山時代の画風を継承した狩野山楽(1559–1635)とその養子・山雪(1590–1651)の親子は京に留まり、探幽とは異なる個性的な作品を描きました。本章では探幽ら江戸狩野と山楽・山雪ら京狩野の作品を通じて、狩野派の軌跡を特集します。
やまと絵〜景物画と物語絵
平安時代、「唐(漢)」に対する「やまと(和)」の自覚を背景に、日本の風俗や事物を主題とする「やまと絵」が誕生しました。発生当初のやまと絵は、日本主題の絵画を指すにすぎませんでしたが、次第に日本独自の絵画様式へと発展しました。水墨を主とする唐絵に対して、濃厚な彩色による装飾性がやまと絵の特徴であり、仏教的主題を別にすると、四季の風物を中心に描いた襖絵・屛風絵などの大画面と、『源氏物語』に代表される古典文学を中心に描いた絵巻・冊子絵本などの小画面に大別されます。本章では四季や物語を描くやまと絵の世界を展観します。
琳派
琳派は17世紀に活躍した俵屋宗達(生没年不詳)を始まりとします。京の絵屋「俵屋」を主催した宗達は、やまと絵や水墨画から得たモチーフを意匠化し、たらし込みの技法などを駆使した特色ある作風を生み出しました。その画風は尾形光琳(1658–1716)、さらには光琳に私淑した酒井抱一(1761–1829)へと継承されました。本章は宗達や抱一、また抱一の高弟であり、近年、その鋭利な美意識が再評価されている鈴木其一(1796–1858)らを中心に、琳派芸術の美を紹介します。
浮世絵
江戸時代、大都市に発展した江戸において独自に開花した新しい芸術が浮世絵版画です。菱川師宣(1618?–94)にはじまるといわれる浮世絵は、市場の組織化と、版元を中心とした絵師・彫師・摺師による分業体制の確立により江戸を代表する美となります。モノクロームの墨摺りから多色摺りへと発展した浮世絵版画は「錦絵」とも呼ばれ、美人画・役者絵に加えて名所絵など新しい画題も登場します。本章ではミネアポリス美術館が誇る浮世絵コレクションから選りすぐりの名品をご覧にいれます。
日本の文人画〈南画〉
日本の文人画は、江戸時代の中期以降、長崎を通じてもたらされた、明・清代の中国絵画に憧れた人々によって描かれた新たなモードの絵画です。池大雅(1723–76)、与謝蕪村(1716–83)の二人によって大成される日本の文人画は、中国文化への憧憬を背景に日本独自に発展し、中国風の理想郷を描く山水画をはじめ、自らの旅の経験や実際の景色を見た感興が込められた真景図など、数々の魅力ある作品を生み、江戸絵画史に新機軸をもたらしました。
画壇の革新者たち
江戸時代中期、伊藤若冲(1716–1800)や曾我蕭白(1730–81)に代表される「奇想の画家」は、極端にデフォルメした構図の水墨画や細密な濃彩画によって独自の境地をひらきました。本章では若冲や蕭白の優作に加え、多彩な江戸絵画を生み出す契機となった長崎派の作品もご紹介します。
幕末から近代へ
明治になると西洋から「美術」という概念や新しい材料・技法がもたらされ、日本の絵画は大きく転換しました。伝統の技法や画派を継承する「日本画」と油彩画や水彩画など西洋の技法を用いる「洋画」という新しいカテゴリーが誕生し、浮世絵を母体とした新版画、創作版画も含め、日本の近代美術は多様な展開を見せていきます。ミネアポリス美術館には、海外でも高い評価が与えられた河鍋暁斎(1831–89)や、渡辺省亭(1852–1918)、アーネスト・フェノロサ(1853–1908)の知遇を得た狩野芳崖(1828–88)らの作品を所蔵しています。また、明治前期に渡米した移民画家・青木年雄(1854–1912)のような、アメリカならではの作品もあり、日本国内での再評価も期待されます。