現代日本のリアリズム絵画を代表する画家・野田弘志の画業を回顧する本展。その展示作品の一部をご紹介します。
静物画
画壇デビューを果たした1970年代から80年代にかけて、野田は主に、背景が黒く塗られ、モチーフの存在感際立つ作品を制作していました。80年代には金地あるいは白地の背景が作品の大半を占めるようになり、やがて実際にモチーフのある空間そのものを描くように変化していきます。モチーフも、野菜や草花などから、生命の本質を追求しようと化石や骨へ、ついには「存在」を追求するべくロープ一本のみに絞られるまでに至ったのです。

- 《黒い風景 其の参》
- 1973年
- 油彩・板・麻布
- 豊橋市美術博物館

- 《TOKIJIKU(非時)ⅩⅡ Wing》
- 1993年
- 油彩・カンヴァス
- 豊橋市美術博物館

- 《THE-9》
- 2003-04年
- 油彩・カンヴァス
- 姫路市立美術館
新聞連載小説挿画
加賀乙彦著『湿原』は、朝日新聞に掲載された連載小説です(1983年5月7日〜1985年2月5日)。野田は挿画の原画制作を担当。野田ならではの緻密な描きぶりと、場面の絵解きではない、小説と自由な関係性を保った表現が評判となって、一躍その名が全国に知られるようになりました。会場では、全628点のうち110点余りを展示します。

- 《鳥の巣[第55回連載]》
- 1983年
- 鉛筆・紙
- 個人蔵

- 《涙[第148回連載]》
- 1983年
- 鉛筆・紙
- 豊橋市美術博物館

- 《ホッチャレ[第197回連載]》
- 1983年
- 鉛筆・紙
- 豊橋市美術博物館
風景画
『湿原』挿画制作のため北海道に取材旅行を行ったことをきっかけに、北海道の大自然に強く惹かれていった野田。と同時に、風景画も制作するようになりました。静物や人物を描くときと変わらないスタンスで細密に描かれた風景は、現実以上のリアルさでもって観る者に迫ります。

- 《摩周湖・霧》
- 1996年
- 油彩・カンヴァス
- 公益財団法人ウッドワン美術館

- 《朝の美ヶ原》
- 2005年
- 油彩・カンヴァス
- 松本市美術館
人物【裸婦と肖像】
野田弘志は、1997年以降、裸婦をモチーフにした「THE」シリーズ、「聖なるもの」シリーズ、「崇高なるもの」シリーズと、継続して人物画を制作してきました。これらは、眼の前の一人一人を描くことを通して「人間とは何か」を問う試みです。特に、音楽家や絵を学ぶ学生、著名な研究者などが等身大以上のサイズで描かれた「崇高なるもの」は、その飾り気のないポーズと表情ゆえに、一人一人の存在感が際立つシリーズとなっています。

- 《THE-8》
- 2002-07年
- 油彩・カンヴァス
- 河村アートプロジェクト(北海道立近代美術館寄託)

- 《「崇高なるもの」OP.3》
- 2012年
- 油彩・カンヴァス
- ホキ美術館