本格的な作例では現存最古となる、
平安時代の檜扇。
永く社殿の奥に秘められてきたがゆえに
美しい色彩が残り、紅葉や萩などの合間を
蝶が舞う様子が見える。
扇は神と人を結ぶ道具であり、
時に御神体そのものとなった。
空中を舞い落ち、水流に漂う扇。
形を変え、やがては波間に失われてゆく。
「扇流し図」が描かれたこの襖絵は、
将軍が湯上りのひとときを過ごす空間を飾ったもの。
優雅な清涼感が、扇の儚さを引き立てている。
鳳凰や、龍、孔雀など、おめでたいモチーフをあしらった衣装をまとい、
金色の空間で艶やかに舞うマドンナたち。
手先で軽やかにひるがえる扇が、
衣装の麗しさとポーズの華やかさをさらに際立たせている。
竹骨を削る男に、扇紙を貼る女。
中世に大量生産が可能となった扇は、
贈答品として、コレクション・アイテムとして、
人々の間を自在に行き来するコミュニケーション・ツールになった。
繊細な物語絵を、手中でコンパクトに楽しめる扇。
屏風に貼り集めれば、ダイナミックな鑑賞も叶う。
優美な王朝物語から、迫力の合戦物、
由緒正しき寺社縁起まで、
物語は扇に描かれる人気テーマの筆頭だった。
近世には、庶民もこぞって手にした扇。
「扇絵を手掛けなかった絵師はいない」
といっても過言ではなく、
扇という型をいかに斬新に生かせるか、
絵師たちは競うように
魅力的な作品を生み出した。
蓋物の織部には、凸凹をつけて扇の骨まで表現されている。
本来さまざまなものを乗せる器でもあり、
邪気を払う聖性を秘めた道具でもある扇。
その多面的な性格を、立体で再構築した魅力的な逸品。
繁栄を意味する「末広がり」な扇のかたちは、
吉祥性を備えたおめでたいもの。
そこにあるだけで華やかで、
こんな大胆なデザインが愉しめるのも、
扇形が好まれた理由のひとつ。
扇を開閉する動きを、屏風のそれに見立てて描いた、
機知に富む約3メートルの巨大扇。
熊谷直実と平敦盛の一騎打ちを、鮮やかな色彩で魅せる。
変幻自在な扇の、究極の姿のひとつ。