展示案内
小村雪岱 肉筆画
多忙な商業美術家として生き、画壇と距離を置いていた雪岱は、日本画家としての高い技術を持ちつつも、積極的に肉筆画を描くことはしませんでした。そうした中で遺された作品は限られた数ながら、その繊細で優れた筆遣いを直接感じられる逸品ばかりです。本展では若き日の模写作品や習作なども含めた約30点をご紹介します。

- 小村雪岱 「赤とんぼ」
- 絹本着色 昭和12年(1937)頃
- 清水三年坂美術館

- 小村雪岱 「七夕」
- 絹本着色 昭和15年(1940)
- 清水三年坂美術館

- 小村雪岱 「菅公幼少」
- 紙本着色 明治37年(1904)
- 清水三年坂美術館
小村雪岱 木版画
版画作品は一部を除き、肉筆原画をもとにして雪岱の没後に制作されたもの。なかでも昭和16〜18(1941〜43)年頃、戦災による雪岱作品の消失を憂慮した人々が発起人となり、弟子・山本武夫らの監修で制作された木版画シリーズは、優れた質を誇ります。これらは失われた雪岱作品の姿も今に伝えてくれる、貴重な存在となっています。

- 小村雪岱 「雪兎」
- 木版多色刷
- アダチ版画研究所
- 昭和17年(1942)
- 清水三年坂美術館

- 小村雪岱 「A Beauty」
- 木版多色刷
- 昭和10年(1935)
- 清水三年坂美術館

- 小村雪岱 「春雨」
- 木版多色刷
- アダチ版画研究所
- 清水三年坂美術館
小村雪岱 装幀本
大正3年(1914)、人気小説家・泉鏡花の指名により、新作単行本『日本橋』の装幀者に抜擢された雪岱。好評を博し、以後「鏡花本」の装幀の多くを、雪岱が手掛けることとなりました。やがて人気装幀家として、様々な作家の著作に携わり、その数は生涯200冊以上にのぼります。表紙や見返しを通して物語の魅力をさらに高めた、美麗な装幀本の数々を紹介します。

- 長田幹彦 『祗園夜話』 函、表表紙
- 大正4年(1915)
- 清水三年坂美術館

- 泉 鏡花 『愛染集』 表見返し
- 大正5年(1916)
- 清水三年坂美術館

- 泉 鏡花 『斧琴菊』 表紙
- 昭和9年(1934)
- 個人蔵
小村雪岱 挿絵原画
装幀家としての評価を確立した雪岱に、連載小説の挿絵の仕事が舞い込みます。極細の面相筆による繊細な描線、白黒のコントラストが成す大胆な構図、「昭和の春信」と絶賛された、江戸情緒と現代性が合わさった人物像。雪岱は「挿絵画家」として、大衆からの人気も不動のものとしたのです。

- 矢田挿雲 『忠臣蔵』 第883回 偵察(144)
- 昭和13年(1938)10月26日掲載
- 紙本墨画淡彩
- 個人蔵

- 吉川英治 『遊戯菩薩』 第16回
- 昭和10年(1935)9月15日掲載
- 紙本墨画
- 清水三年坂美術館

- 土師清二 『旗本伝法』 第147回 鬼瓦(1)
- 昭和12年(1937)7月14日掲載
- 紙本墨画
- 清水三年坂美術館
小村雪岱 舞台装置 原画
38歳の時、雪岱の活動は、舞台装置の領域にも広がります。大道具や小道具といった演劇の舞台装置を制作するための原画を、1/50程度のスケールで描く仕事です。ときに風俗考証や衣装デザイン、照明なども総合的に監修するアートディレクターとして、役者たちからも絶大な信頼を得た雪岱は、劇場でも200以上の物語を次々と視覚化していきました。

- 中里介山 『大菩薩峠』 四幕の一 嶋原口
- 舞台装置原画:小村雪岱
- 昭和5年(1930)9月上演 歌舞伎座
- 紙本着色 清水三年坂美術館

- 中里介山 『大菩薩峠』 四幕の二
- 舞台装置原画:小村雪岱
- 昭和5年(1930)9月上演 歌舞伎座
- 紙本着色 清水三年坂美術館
工芸
本展では雪岱作品のほか、明治工芸を中心とした工芸作品の数々も展示します。雪岱に私淑する現代の作家たちが、本展のために制作した新作も合わせ、江戸の粋を受け止め、東京のモダンを体現した「雪岱スタイル」と呼応する美意識をお楽しみください。

- 高木芳真 「桜桃牙彫置物」
- 大正~昭和時代・20世紀
- 清水三年坂美術館

- 松本 涼 「枯山百合」
- 楠 2019年
- 個人蔵

- 並河靖之 「藤に蝶図花瓶」
- 明治時代・19〜20世紀
- 清水三年坂美術館

- 白山松哉 「見立芦葉達磨蒔絵硯箱」
- 明治時代・19〜20世紀
- 清水三年坂美術館