山下清の貼絵の最大の魅力は、その鋭敏な観察眼や繊細な色彩感覚によってもたらされる驚異的な細密描写であるといえるでしょう。3ミリ程度にちぎられた色紙を、あたかも印象派の点描であるかのように細かく貼り込みながら、複雑な色合いを実現し、迫力ある画面をつくりあげています。実際に作品を目の前にしないとなかなか味わうことのできない、山下清のこまやかな描写を、作品の拡大画像によってお楽しみください。
これでもかというほどに貼り重ねられた細かい色紙。その膨大な集積が、折り重なって垂れ下がっていく菊の花の一輪一輪に見えてくるから不思議です。また、菊に群がり、蜜をあじわう蜂もとてもリアル。色紙をちぎって丸めた「こより」を組み合わせて立体的につくられています。
石灯籠の遠近法。石畳の遠近法。そして、なんといっても本物の木としか思えない幹の質感!素朴な迫力満載です。
一本一本の毛に対する執着。黒だけではなく、他の色も微妙に混ぜながら、光の反射や地肌の感じまで、見事に表現されています。是非、本物で味わってください!
波にきらめく光が青と白の色紙で細かくあらわされると同時に、ちぎられた色紙の大小によって遠近感が強調されています。色紙の大きさがはっきりと3段階に分かれて帯状に見える海面の表現が、素朴で、力強く、とてもユーモラスです。ちなみに、制作日数は25日、制作時間は126時間40分。実際に制作した日時が、作品の裏にしっかりと記録されていたことが、作品修復時にわかりました。
この頃になると、色紙は、指でちぎったとは思えないほど細かくなります。ゆっくりと流れる川面にうつしだされた石橋のゆらめきはとても繊細。細かい筆によるタッチで仕上げられたようにも見えます。
《桜島》に比べると、波と光の表現がとても洗練されてきていることがわかります。柔らかな波の表現の一方で、煉瓦を緻密に積み上げてつくられた橋脚のごつごつした感じが絶妙です。それにしても大型観覧船の乗客たちの細かいこと!