香月 泰男
《青の太陽(シベリア・シリーズ)》
- 1969(昭和44)年
- 油彩/カンヴァス
黒い色面が階段のようにせり上がるその先に、鮮やかな青でいびつな形が描かれています。この絵の構図は、地中から、地面にあいた穴を通して空を見上げたもの。以前、香月が耳にした、深い穴底から空を見ると昼間でも星が見える、という話がもとになっています。
太平洋戦争の最中、匍匐訓練の時に偶然目にしたアリの姿をヒントに、香月はこの絵を描きました。意思に反して戦争の訓練に駆り出されている自分。それとは対照的に、人間に比べれば小さな存在であるはずの蟻は、地面に穿たれた巣穴を自由に出入りし、生きることを謳歌しているように見えました。
いっそのこと蟻になって、地中深くにもぐっていたい。そうすれば、少なくとも、醜い人間同士の争いを見ずにすむではないか・・・。訓練の最中に抱いたやるせない思いが、一見、抽象画のように見えるこの作品のモティーフになっています。
作家プロフィール
香月 泰男【かづき やすお】
生没年 1911~1974(明治44年~昭和49年)
山口県大津郡三隅村(現・長門市三隅)に生まれた香月泰男は、東京美術学校で油彩画を学びました。卒業後は美術教員の傍ら国画会を中心に作品を発表します。1943年から太平洋戦争に従軍。戦後は1947年までシベリアに抑留されました。1967年、従軍と抑留の経験を描いた「シベリア・シリーズ」により、第一回日本芸術大賞を受賞。1974年に急逝するまで描き継がれた同シリーズは今日も多くの人々を惹きつけています。