香月 泰男
《埋葬(シベリア・シリーズ)》
- 1948(昭和23)年
- 油彩/カンヴァス
温かみのあるオレンジ色の画面。薄い緑色の服を着た人物が横たわり、その足元には上半身裸の男がかがみこんでいます。手前にはシャベルが置かれ、そこが地面に開けた穴の中であることを示唆しています。この絵は、香月泰男がシベリアで最初の冬を過ごしたセーヤ収容所で、命尽きた同胞を埋葬した体験を描いたもの。画面の奥を向いた死者の顔には白い布がかけられています。
シベリアで過ごした最初の冬は想像を絶する厳しいものでした。極寒と劣悪な生活環境、粗末な食事、過酷な重労働によって、香月が抑留された収容所では抑留者の実に1割が一冬の間に命を落としました。
しかし、画面からは抑留生活の過酷さは伝わってきません。帰還後まもなく描かれたこの絵について、香月は「異郷の冷たい土の下に葬られる戦友を、ことさらあたたかい色で描いた」と記しています。せめて絵の中だけでも、あの寒さから解放してやりたいという思いがあったのでしょう。
作家プロフィール
香月 泰男【かづき やすお】
生没年 1911~1974(明治44年~昭和49年)
山口県大津郡三隅村(現・長門市三隅)に生まれた香月泰男は、東京美術学校で油彩画を学びました。卒業後は美術教員の傍ら国画会を中心に作品を発表します。1943年から太平洋戦争に従軍。戦後は1947年までシベリアに抑留されました。1967年、従軍と抑留の経験を描いた「シベリア・シリーズ」により、第一回日本芸術大賞を受賞。1974年に急逝するまで描き継がれた同シリーズは今日も多くの人々を惹きつけています。