高橋 由一
《鴨図》
- 1877(明治10)年
- 油彩/カンヴァス
大きく首を曲げて横たえられたカモ。周囲をセリの束が取り囲み、足元にはフキノトウの蕾が三つ置かれています。柔らかい羽毛、ごつごつした足、乾いたセリの根など細部を見ていくと、様々な部位の質感の違いが、筆触を変えて丁寧に描き分けられています。日本に導入されて間もない時期に油彩技法を学んだこの画家の高い描写力がうかがえます。
ところでカモは、日本で肉食が一般的ではなかった時代にも食された数少ない食肉のひとつです。特に江戸時代には、鴨鍋の際など、くさみ消しにセリをあわせて食べるのがカモネギならぬ鉄板の組み合わせでした。このように、日本の実生活に即した食材として馴染みある組み合わせでモチーフが選ばれている点には、西洋由来の油彩による静物画ながら、画家自身の感性が反映されていると言えるでしょう。とはいえ、カモの微笑んでいるかのような表情は、食材としての運命など自身には関係ないと言わんばかりです。
作家プロフィール
高橋 由一【たかはし ゆいち】
生没年 1828~1894(文政11年~明治27年)
江戸(現・東京)出身。初め狩野派に学びますが、西洋の石版画を見て強い感銘を受けて洋画の研究を決意、幕府の蕃書調所画学局で川上冬崖に師事、次いでイギリス人画家のワーグマンに油彩の技法を学びました。洋画の普及を自身の使命とし、1873年には官職を辞して私塾天絵楼を設立、原田直次郎ら多くの弟子を養成すると同時に、展覧会の開催、美術雑誌の刊行などの活動も行いました。