山口県立美術館|山口県山口市

雨後図

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松林 桂月
《雨後図》

  • 1955年
  • 絹本墨画
画像:雨後図

モノクローム(白黒)の絵ながら、雨が降った後の葡萄が見せるみずみずしい表情を精緻に写しています。輪郭線を用いない没骨法によって葡萄の葉と実とを描かれ、実の一部、ハイライトの部分にわずかに胡粉(白絵の具)を加えられています。全体をほぼ水墨のみによって描きながら、ごく一部分だけに胡粉を用いるこの手法は、おぼろ月夜に浮かび上がる桜花の叙情性を見事に描き出した戦前の代表作「春宵花影」(東京国立近代美術館蔵)にも共通して見られるものです。作者の桂月は色彩豊かな花鳥画の分野においても数多の名作を残していますが、とくに七十歳を過ぎた戦後になってからは、墨一色の美しさを追求した作品を多く描いています。雨上がりの葡萄に映る陽光を繊細に表現するこの絵の魅力も、微妙きわまりない墨の色のうつろいにあると言ってよいでしょう。この名作「雨後」が描かれたのは桂月八十歳の年、1955年(昭和30)。至高の境地に達した巨匠の傑作です。

作家プロフィール

松林 桂月【まつばやし けいげつ】

生没年 1876〜1963(明治9年〜昭和38年)

山口県萩市に生まれ、大正から昭和時代に活躍した日本画家。野口幽谷(1825〜1898)に師事して、渡辺崋山・椿椿山に通ずる謹直な花鳥画を学びました。文展・帝展における代表的な南画家として活躍し、独特の震えるようなリズムをもった筆致を特徴とする水墨画によって、高い評価を受けました。詩・書をもよくし、「最後の文人画家」とも評されています。妻の雪貞も同じ幽谷門下の日本画家です。

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