森 寛斎
《京人形図》
- 1885(明治18)年
- 絹本着色
豊かな黒髪を結い上げ、切れ長の目元でほほ笑む、あでやかな女性。その傍らには、満足げに彼女を見つめる男性がおり、二人の周囲には彫刻道具や材木が置かれています。
本作は、歌舞伎などの演目として知られる物語「京人形」のワンシーンを描いたもの。主人公の左甚五郎は、「あまりに巧みな腕前ゆえ、彫った動物たちが夜な夜な動き出す」と噂される江戸時代の伝説的名工で、彼が一目ぼれした遊女にそっくりの人形を作ったところ、魂を得て動き出した、という瞬間です。まるでスポットライトが当たったかのように、人形の女性のみに鮮やかな色が用いられ、この劇的な場面を舞台で見るかのような演出となっています。
綿密な細部の描き込みや、墨のかすれとにじみを駆使した丁寧な画面作りも魅力的。庶民に親しまれた物語に、寛斎らしい情緒と品の良さが合わさった、円熟期の名品です。
作家プロフィール
森 寛斎【もり かんさい】
生没年 1814~1894(文化11年~明治27年)
萩出身の日本画の巨匠。長州下級藩士の家に生まれ、18歳のとき大阪で写実的な動植物を得意とする森徹山に入門、やがて養子となります。幕末には維新志士として国事に奔走しますが、明治に入ると再び京都に戻り、帝室技芸員にも任命されました。写生に基づく緻密さに、南画的なやわらか味を加えた、気品あふれる作風が特徴です。